大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福井家庭裁判所 昭和58年(少ハ)1号 決定

主文

本件申立を却下する。

理由

(一)  申立人の「再審請求書」、「上申書」、「趣意書」と各題する書面、当裁判所調査官の調査報告書、当裁判所書記官の事件受理に関する報告書によれば、

1  申立人は、当裁判所が昭和三四年四月一三日申立人に対してなした昭和三四年少三〇四号窃盗保護事件(以下保護事件という)に関する初等少年院送致の旨の決定の取消を求め、

2  その理由として、同保護事件に関し、

ア  裁判所は申立人に事件名の記載もない呼出し状で昭和三四年三月二一日午後一時までに裁判所へ出頭するように求め、その所定時間迄に出頭した申立人を約三時間半にわたつて待合室に待たせた後、裁判官はなんの事件かの告知もせずに申立人を福井少年鑑別所に収容し、

イ  さらに同年四月一三日の審判期日には、裁判官は事件名、事件の内容を告知することなく、申立人を初等少年院に送致する旨の決定をなし、またその不服申立手続も告知しなかつた、

ウ  また、申立人の保護者であつた申立人の両親(父A、母B)は就学もなさず、世情にも疎く、また貧困であつたので、十分に申立人の保護をなさなかつた、

エ  このため申立人は身に覚えのない事実無根の事件により、昭和三五年一〇月一四日まで富山少年院に収容された、

オ  かりにそうでないとしても、申立人の少年院への収容期間は成人の刑事初犯事件の量刑に比べて著しく重い不当なものであつた、

との各違法な事由があつた、と主張する。

(二)1  申立人の本件申立は、その申立書には「再審請求書」と標題が付けられ、その文中にも「再審請求を申立てる」との文言がみられるけれども、少年法自体には再審に関する規定がないので、同法二七条の二、一項による保護処分の取消を求める趣旨であると解する。

2  裁判所書記官の前記報告書によれば、申立人に関する前記保護事件の事件記録は、事件記録等保存規程(昭和三九年一二月一二日付最高裁判所規程八号)四条により、昭和四六年三月九日全部廃棄処分され、現存していないことが認められる。しかし、福井少年鑑別所には少年の上記保護事件に関する決定書の写と認められる書類(以下決定書写という)が保存されている。

3  前掲裁判所書記官の報告書、決定書写によれば、申立人に関する前記保護事件の処分手続および処分理由はつぎのとおりである。(少年とあるは申立人のこと)

ア  事件番号、事件名 福井家庭裁判所昭和三四年少第三〇四号 窃盗保護事件

イ  審判期日 昭和三四年四月一三日

ウ  主文 少年を初等少年院に送致する。

エ  非行事実・適条 少年は、昭和三四年一月一〇日ころ、福井県武生市旭町九〇番地電気商重野信男方において、同人保管の皮ケース付のトランジスターラジオ一台(時価一万円相当)を窃取した。

刑法二三五条該当

オ  要保護性・手続条項 少年は昭和三三年一二月二三日当裁判所で同種の非行により保護観察所の保護観察処分に付されたのに拘らず、その直後本件非行に及んだものであり、分裂性精神病質の疑いもあり、非行も常習化の傾向が見受けられ、性格上かなりの問題点を含んでいるので、施設に収容の上性格の矯正を計るのを相当と認める。

少年法二四条一項三号適用

(三)  申立人の主張する前件保護事件についての違法事由のうち

1  前記(一)2アの観護措置手続については、前掲決定書写が鑑別所に存在することから、当裁判所が当時申立人に対して観護措置をとつたであろうことは推測しうるが、その違法事由の点については申立人の申述に沿う他の資料もなく、それを認定するに至らず、

2  同イの審判期日の手続についても、その審判期日に前記決定がなされたこと以外に、その手続に違法があつたとする点にはそれに沿う他の資料もなく認定するに至らず、

3  また同ウの申立人両親の保護能力については、法律上保護能力について別段の基準がないので、その実質的欠如をもつて審判を違法ならしめる事由とはいえず、

4  同エの非行事実自体の存否は当裁判所調査官の照会に対し、被害者重野信男は「二五年も前のことで盗難のあつたことは事実ですが、犯人の名前は一切知りません。」と回答しているだけであつて、他にその存否について疑念を抱かせるに足る資料もなく、

5  最後に同オの少年院への収容期間と刑事量刑との比較の点は、少年院への収容は保護処分であつて刑罰ではなく、おのずからその目的、処遇内容を異にするものであるから、その期間の長短のみをとらえて違法とすることはできない。

(四)  そうすれば申立人の本件申立はいずれも前記保護処分を取消す事由が認められないので却下する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例